木で家をつくる理由
僕が建築の勉強を始めたころは、バブル経済がはじけたばかりの頃でしたので、最先端の建築は鉄骨か鉄筋コンクリートで造るもので、木造が建築のトピックとして取り扱われることはほとんどありませんでした。当時日本の大学の建築学科では木造をカリキュラムに組み込んでしっかり教えるところは少なかったと思います。
築80年の古い民家で暮らしていた僕には、木造住宅は不便で寒くて古臭いもので、建築雑誌を眺めては鉄骨やコンクリートで造られる見たこともない形の建物に夢中になっていました。
そんななか、実際に鉄筋コンクリート造の建物で暮らしている人たちから、住み心地に関してあまり良い話を聞かないことが多く、建物の形にばかり関心があった僕自身の考えが、住まいの生活環境を総合的に考えることに興味が移っていくなかで、木で家を造ったほうが、むしろ良いことが多いことに気づき始めました。
住まいの住み心地を決める、重要な性能が「断熱性能」です。この性能が高い家ほど、家中の温度差が少なく健康的かつ快適にそして省エネに過ごすことができますが、鉄やコンクリートに比べて、木のほうが構造材としての断熱性に優れているので高断熱の住まいが設計しやすく、実際に断熱材を施工してみても鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物に比べて木造に断熱材を施工したほうが施工がしやすいと思います。
再生が可能な材料であることも大きな魅力です。木を計画的に伐採し同時に植林をすることで森が豊かになり持続的な材料の供給と森林保護が達成できます。間伐材や製材時に発生した端切れ材は集成材やペレットといった燃料にすることもでき、余すことなく利用できることから、手入れされた森林から供給された木材ほどエコな建材はないといえるでしょう。
それでも木はコンクリートや鉄に比べて強度は落ちますし、大きな空間や大きな開口を造るのは難しいとされてきました。僕が学生の頃に阪神大震災があり、あまりに多くの木造住宅が倒壊したことから、木造住宅の強度不足が問題とされていましたが、現在は技術の進歩から木の強度を増す技術や工法がたくさん開発され、それに伴い木造住宅の強度もアップしただけでなく今まで木造住宅では難しかった形も可能になり、木造の大規模建築もいくつも建築されるようになりました。
日本人にとって木造建築の歴史は長く、愛着のある素材として定着しています。もちろん僕も木という素材に深く魅力を感じていますが、そんな情緒的な感情を抜きにしても、「住み心地」、「省エネ」、「環境」、「技術」、「デザイン」、これら建物を考えるうえで大事なテーマすべてに、木という昔からあった当たり前の素材がいまや最先端の建材として利用されています。だからこそ、今家を造るなら木で作るべきだと思っています。